民法改正で金銭消費貸借契約はどう変わるのか?

債権関係規定(債権法)に関する改正民法が2017年5月に成立し、2020年4月1日に施行されます。

契約に関する規定の大半は明治29(1896)年の民法制定から変わっておらず、今回の改正は、民法制定以来、約120年ぶりに抜本改正されます。

改正は、約200項目に上り、様々な生活の場面に影響が及ぶ身近なルール変更が多いです。

以下、民法改正により、金銭消費貸借契約の契約条項で注意しておきたい点を説明します。

書面でする消費貸借等

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改正民法は、現行民法587条をそのまま残した上で、587条の2を追加し、要物契約としての消費貸借を基本としつつ、新たに、諾成的消費貸借を成立させるためには消費貸借を「書面」ですることを要し、受取りまでは借主は解除できるとしています。そして、貸主が解除によって損害を受けたときは損害賠償ができるとしています。

「諾成契約」とは、当事者双方の合意のみで成立する契約をいいます。

「要物契約」とは、当事者双方の合意に加えて、目的物の引き渡しなどの給付があってはじめて成立する契約をいいます。

なお、諾成的消費貸借において、契約成立によって借主の借りる義務が発生するわけではないことは、現行民法下の多数説と同様です。

諾成的消費貸借の成立により、貸主に対する借主の金銭等の引渡請求権が発生し、金銭等の引渡しがされれば、借主に対する貸主の返還請求権が発生することになります。

また、貸主の損害賠償請求権については、常に損害賠償が必要というわけではなく、解除と因果関係のある損害が発生し、貸主がそれを証明したときに、その損害の賠償をするということになります。

例えば、金銭消費貸借契約が成立したので貸主が資金を調達したが、解除されたので調達コストが無駄になったといった損害が念頭に置かれていると考えられます。

改正民法 第587条の2

(書面でする消費貸借等)

第五百八十七条の二

前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。

4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。

条項例

第1条(乙の解除権)

乙は、第●条の金員を受け取るまで、本契約を解除することができる。ただし、乙は、本契約の解除によって甲に現に損害が発生した場合には、甲に対し、その損害を賠償する責任を負うものとする。

利息

改正民法589条は、1項で、特約をしないと貸主は借主に利息を請求することができないという従前の当然の前提を明定した上で、2項で、特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができるとしています。

これは、書面でする諾成的消費貸借との関係で、金銭その他の物を引き渡していなくても、契約の効力は生じますが、利息を支払わなければならないのは、実際に金銭その他の物を受け取ってからとしたものです。

改正民法 第589条

(利息)

第五百八十九条

貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。

2 前項の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。

条項例

第1条(利息)

利息は、元金に対し年●パーセントとし、乙が第●条の金員を受け取った日から発生するものとする。

期限前返還の貸主の損害賠償請求権

改正民法は、返還時期を定めた消費貸借において、借主による期限前の返還によって貸主に損害が生じた場合には、貸主が借主に対して損害賠償を請求することができるとしています。

書面による諾成的消費貸借における引渡前の借主の解除の場合と同様に、貸主の損害賠償請求権については、解除と因果関係のある損害が発生し、貸主がそれを証明したときに、その損害の賠償をするということになります。

原則として、貸主に実際に発生した損害、例えば、ローンの繰上げ返済の際の事務手数料などが念頭に置かれていると考えられます。

改正民法 第591条

(返還の時期)

第五百九十一条

(略)

2 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。

3 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる

条項例

第1条(弁済期前弁済)

乙は、弁済期前であっても、第●条の借入金元本及び第●条の利息金を弁済することができる。ただし、乙は、弁済期前に弁済することによって甲に現に損害が発生した場合には、甲に対し、その損害を賠償する責任を負うものとする。

事業に関する債務の個人保証

個人が保証人となる保証契約のうち、事業のために負担した貸金等債務(金銭の貸渡し・手形の割引を受けることによって負担する債務)を主債務とする保証契約(及びそのような貸金等債務を主債務の範囲に含む根保証契約)については、原則として保証人になろうとする者が一定の方式に従って公正証書により保証債務を履行する意思を表示して行わなければ、効力を生じないとされています(改正民法465条の6)。

上記には一定の例外が設けられています。

主債務者の取締役や総株主の議決権の過半数を有する者、あるいは、主債務者が個人事業主である場合の共同事業者や主債務者が行う事業に従事している主債務者の配偶者などが保証人となる保証契約については、いわゆる経営者保証又はそれに準じるものとして、適用除外とされています(改正民法465条の9)。

公正証書による保証意思確認措置については、金銭消費貸借契約書上は、当該措置が講じられたことを当事者間で確認し、公正証書の謄本等を別紙として添付することなどが考えられます。

一定の個人を保証人とする保証契約について、公正証書による意思表示の手続をとらない限り無効とする規定ですが、適用範囲は限定されており、①法人による保証、②前述の経営者保証の例外に該当する場合、③貸金等債務以外を主債務とする保証や④主債務者が事業のため以外の目的で負担した貸金等債務を主債務とする保証は、この規定の対象とはなりません。

また、主債務者は、事業のために負担する債務を主債務とする保証について個人に委託するときは、委託を受ける者に対し、

・財産及び収支の状況

・主債務以外に負担している債務の有無、その額及び履行状況

・主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容の情報を提供しなければなりません(改正民法465条の10第1項・3項)。

①主債務者がこれらの情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したために、委託を受けた者がこれらの事項について誤認した場合で、②主債務者が情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り、または知ることができたときには、保証人は、保証契約を取り消すことができます(改正民法465条の10第2項)。

金銭消費貸借契約書上は、主たる債務者から保証人に対して民法所定の情報提供がなされたことを当事者間で確認し、情報提供に係る書面を別紙として添付することなどが考えられます。

改正民法 第465条の6

(公正証書の作成と保証の効力)

第四百六十五条の六

事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。

2 前項の公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。

一 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。

 イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。) 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。

 ロ 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、根保証契約における極度額、元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度において元本確定期日又は第四百六十五条の四第一項各号若しくは第二項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。

二 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。

三 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

四 公証人が、その証書は前三号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

3 前二項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。

改正民法 第465条の9

(公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外)

第四百六十五条の九

前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。

一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者

二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者

 イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者

 ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

 ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

 ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者

三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者

改正民法 第465条の10

(契約締結時の情報の提供義務)

第四百六十五条の十

主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。

一 財産及び収支の状況

二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況

三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。

3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。

条項例

第1条(公正証書による保証意思確認)

甲と乙は、連帯保証人●(以下、「丙」という。)が、別紙「●」のとおり、本契約締結日の1か月前までに、民法所定の公正証書による保証意思確認措置を講じたことを確認する。

第2条(主債務者による情報提供)

甲、乙及び丙は、乙が丙に対し、別紙「●」のとおり、民法所定の情報を提供したことを確認する。

 

 

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