高度プロフェッショナル制度の創設に至るまで
「働き方改革関連法」は、多様な働き方の実現や長時間労働の是正などを目指すもので、改正された労働基準法などあわせて8本の法律で構成されています。
法律のポイントの1つは、時間外労働の上限規制で、原則として、月45時間・年間360時間(休日労働を含まない)としています。
ただ、臨時に特別な事情がある場合には、年間6か月までは、さらなる時間外労働が認められ、月100時間未満(休日労働を含む)、連続する2か月から6か月のいずれの期間の平均も80時間(休日労働を含む)が上限となります。
年間では720時間(休日労働を含まない)が上限となります。
上限を超えた場合には、罰則の対象となり、使用者側に、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。
一方、労働規制を緩和する新たな仕組みとして、高収入の一部専門職を対象に労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」も導入されます。
制度が適用されると、残業や休日出勤をしても労働者に割増賃金は支払われませんが、使用者側には労働者の健康を確保するため、年間104日以上、4週間で4日以上の休日を確保することなどが義務づけられます。
対象になるのは、年収1075万円以上の証券アナリストや医薬品開発の研究者、それに、経営コンサルタントなどが想定されていますが、最終的に年収要件や対象の職種をどうするかは、労使双方が参加する国の審議会での議論を踏まえ、省令で定めることになっています。
さらに、法律には、正社員と非正規労働者の待遇の差をなくすため、同じ内容の仕事に対しては同じ水準の賃金を支払う「同一労働同一賃金」の実現や、労働者の健康を確保するため客観的な記録などによる労働時間の把握をすべての企業に義務づけることなども盛り込まれています。
時間外労働の上限規制は、大企業では、来年2019年4月1日から、中小企業では、再来年2020年4月1日から始まります。
「高度プロフェッショナル制度」は2019年年4月1日から、「同一労働同一賃金」の実現に向けた取り組みは、大企業では2020年4月1日から、中小企業では、2021年4月1日から、それぞれ始まります。
高度プロフェッショナル制度とは
高収入の一部専門職を対象に、働いた時間ではなく成果で評価するとして労働時間の規制から外す新たな仕組みです。
今の法律では、従業員に1日8時間、もしくは週40時間を超えて働かせた場合、一定の割増賃金を支払わなければなりませんが、本人の同意を得てこの制度が適用されると、残業や休日出勤をしても割増賃金は支払われません。
一方、労働者の健康を確保するために、年間104日以上、4週間で4日以上の休日を確保することが義務づけられます。
さらに、2週間の連続休暇取得、臨時の健康診断、仕事を終えてから、次の日、仕事を始めるまでに一定の休息時間を確保すること、それに、1か月または3か月の間に労働者が会社にいる時間「在社時間」に上限を設けるといった、あわせて4種類の取り組みから労使が1つを選んで実施しなければなりません。
制度の対象になるのは、年収1075万円以上の証券アナリストや医薬品開発の研究者、それに経営コンサルタントらが想定されていますが、最終的に年収要件や対象の職種をどうするかは、法案が成立した後、労使双方が参加する国の労働政策審議会で議論し、厚生労働省が省令で定めます。
高度プロフェッショナル制度のメリット
労働生産性の向上
現在、残業をすれば成果に関係なく報酬が支払われるため、仕事が遅い人の方がより報酬が多いといった問題があります。
しかし、高度プロフェッショナル制度においては、労働時間に報酬が左右されないため、効率よく短時間で成果をあげようとするモチベーションから、労働生産性の向上が期待できます。
ワークライフバランスの実現
高度プロフェッショナル制度では、出社や退社の時間が自由に決められるため、育児や介護などと仕事の両立が可能となり、ワークライフバランスの実現が期待されます。
不要な残業代の削減
残業をすればするほど報酬が増える、という矛盾が解消され、企業にとっては人件費のコストカットを図ることができます。
高度プロフェッショナル制度のデメリット
業種によって残業が増加する可能性
企業が労働者に求める成果によっては、その達成のため自然にサービス残業が横行するリスクがあります。
高度プロフェッショナル制度が残業代ゼロ制度と揶揄される原因ともなっており、今後この課題を解決するための更なる議論が期待されます。
仕事に対する成果の評価が難しい
成果に関しては統一した評価を行うことが難しく、結果として評価が適正に報酬に反映されない可能性があります。
このような場合に対応するため、業務のプロセスの適正な評価方法を作ることが必要となります。
問題点
高度プロフェッショナル制度は、高い専門的知識を必要とし、労働時間と成果の関連が薄い仕事に対して適用されるものです。
賃金を労働時間ではなく、労働の成果に対して支払うもので、きちんと運用された場合には、優秀な人ほど労働時間を短縮し、自分の好きな時間に出社・退社することができます。
そして、残業代が出ない分、個々が仕事を頑張るようになり、企業の労働生産性をあげることができます。
但し、この制度が悪用されてしまうと、定額で働かせ放題のような状態になり、結果として適用前より労働環境が悪化してしまう可能性もあります。
今後、対象者の年収条件が次第に下がるなど適用が拡大する場合、この問題がより顕在化する恐れがあり、慎重な検討が必要となるでしょう。