配偶者の扶養内で働くパート社員は年内の仕事量の調整を考え始める時期ではないでしょうか。
配偶者控除と配偶者特別控除の改正で2018年から、税制上の「103万円の壁」は「150万円の壁」になりました。
配偶者の年収要件の引き上げや控除額等が改正され、2018年からは制度が大幅に変わります。
収入拡大の機会ですが、注意すべき壁は税制以外にもあります。
扶養内で働く人は、配偶者控除額の基準とともに勤め先や家族の状況などを考慮し、今後はどう働いていくのかを長期視点で考える契機となります。
以下、各制度に関して、説明します。
なお、この記事では便宜上、生計維持者である納税者を夫、その配偶者を妻と例示して記載します。
以後、主婦や妻などと記載していきます。
この記事で書かれている要点(目次)
1.配偶者控除(配偶者特別控除)とは?
2.2017年までの配偶者控除、配偶者特別控除
2-1.配偶者控除の要件(2017年まで)
2-2.配偶者特別控除の要件(2017年まで)
2-3.2017年までのパート主婦の「103万の壁」「141万の壁」
3.2018年以降の配偶者控除、配偶者特別控除
3-1.2018年以降の配偶者控除
3-2.2018年以降の配偶者特別控除
3-3.2018年以降の「150万の壁」「201万の壁」
4.改正後の注意点
4-1.所得税「103万円の壁」は変わらない
4-2.社会保険「106万の壁」「130万の壁」は変わらない
5.まとめ
「配偶者控除」及び「配偶者特別控除」とは、世帯主等の納税者に所得税法における控除対象配偶者がいる場合または配偶者の所得が一定要件以下の場合に、納税者の所得から一定額を控除(所得控除)できる税制優遇制度のことです。
養う家族(配偶者)がいる世帯の、生活にかかる費用負担を考慮し、税金負担の調整を行う目的で、「配偶者控除は1961年」に、「配偶者特別控除は1987年」に制定されました。
2017年までの配偶者控除、配偶者特別控除の概要は、以下です。
次の要件をすべて満たす人は、「配偶者控除」の控除対象配偶者となり、納税者の所得から38万円を控除することができます。
・ 納税者と生計を一にしている(生計を一緒にしている)
別居していても生活費が仕送りされている等も該当します。
・ 民法の規定による配偶者である(事実婚・内縁関係は該当しない)
婚姻届が提出されている法律婚の配偶者のことです。
・ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていない、又は白色申告者の事業専従者ではない
・ 配偶者の年間の合計所得金額が38万円以下(給与のみなら年収103万円以下)
なお、控除対象配偶者の方が70歳以上だと「老人控除対象配偶者」となり、控除額が48万円となります。
※ 合計所得金額とは、給与や不動産収入などの全ての収入から必要経費を引いた金額のことです。
次の要件をすべて満たす人は、「配偶者特別控除」の控除対象配偶者となり、納税者の所得から最大38万円を控除することができます。年収が増えると控除される配偶者特別控除も段階的に減っていき最終的に控除がなくなります。
・ 納税者と生計を一にしている(生計を一緒にしている)
別居していても生活費が仕送りされている等も該当します。
・ 民法の規定による配偶者である(事実婚・内縁関係は該当しない)
婚姻届が提出されている法律婚の配偶者のことです。
・ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていない、又は白色申告者の事業専従者ではない
・ 他の人の扶養親族になっていない
・ 配偶者の年間の合計所得金額が38万円超76万円未満(給与のみなら年収103万円超141万円未満)
・ 納税者の年間の合計所得金額が1,000万円以下(給与のみなら年収1,220万円以下)
配偶者控除の103万円の壁を超えるといきなり負担が増えるかというと違います。
その上に配偶者特別控除があるためです。
年収が増えると控除される配偶者特別控除も段階的に減っていき最終的に控除がなくなります。
2017年までの「103万円の壁」とは、「パートやバイトで働いている妻の年収が103万円以内であれば、税金面で優遇されます」という意味です。
年収が103万円を超えると、本人には所得税が課せられます。
さらに、妻の年収が103万円以下ならば、夫は配偶者控除として38万円の所得控除を受けることができ、夫の所得税が軽減されます。
つまり、「103万円の壁」とは、自分が所得税を支払わなくて済み、同時に夫も配偶者控除が受けられ所得税が軽減される限界のラインという意味を示すものでした。
「配偶者控除は103万円」「配偶者特別控除が141万円」、この年収を超えると控除額は0円又は減額、つまり税金負担が増えることになります。
2018年以降の配偶者控除、配偶者特別控除の概要は、以下です。
これまでの「配偶者控除」の控除対象配偶者となる要件に、「納税者の年間の合計所得金額が1,000万円(給与収入のみの場合、年収1,220万円)以下」という項目が追加されました。
・ 納税者と生計と一にしている(生計を一緒にしている)
別居していても生活費が仕送りされている等も該当します。
・ 民法の規定による配偶者である(事実婚・内縁関係は該当しない)
婚姻届が提出されている法律婚の配偶者のことです。
・ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていない、又は白色申告者の事業専従者ではない
・ 配偶者の年間の合計所得金額が38万円以下(給与のみなら年収103万円以下)
・ 納税者の年間の合計所得金額が1,000万円以下(給与のみなら年収1,220万円以下)
年収1,120万円(所得900万円)以下なら控除額は38万円です。
この額を超えると段階的に適用される控除額が下がり、年収1,220万円(同1000万円)で0円となります。
「配偶者特別控除」の対象となる、配偶者の年間の合計所得金額の上限が次のように上がり、納税者の控除額も変更されました。
年収要件、控除額以外は2017年までの要件と同じです。
・ 納税者と生計を一にしている(生計を一緒にしている)
別居していても生活費が仕送りされている等も該当します。
・ 民法の規定による配偶者である(事実婚・内縁関係は該当しない)
婚姻届が提出されている法律婚の配偶者のことです。
・ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていない、又は白色申告者の事業専従者ではない
・ 他の人の扶養親族になっていない
・ 配偶者の年間の合計所得金額が38万円超123万円未満(給与のみなら年収103万円超201万6千円未満)
妻の年収が103万円超150万円以下なら、夫は配偶者特別控除として38万円の所得控除。
妻の年収が150万円を超えても201万円までは、夫の収入等と妻の所得額に応じて段階的に配偶者特別控除。
・ 納税者の年間の合計所得金額が1,000万円以下(給与のみなら年収1,220万円以下)
年収1,120万円(所得900万円)を超えると段階的に適用される控除額が下がり、年収1,220万円(同1000万円)で0円となります。
以上のとおり、配偶者控除とは、扶養家族の妻の給与所得が条件以下(パートやアルバイト収入が103万円以下)であれば、夫の所得には配偶者控除として38万円の所得控除が受けられるという、所得税法上の仕組みのことです。
2018年1月より、政府が女性の社会進出を促進するために、「配偶者控除」の対象となる妻の年収要件(年収103万円以下)はこれまでと変わりませんが、「配偶者特別控除」が拡大され、妻の年収が103万円超150万円以下なら、夫は配偶者特別控除として38万円の所得控除が受けられるようになりました。
これにより、パートやバイトの収入を月収約8万5,000円に抑えていた人は12万5,000円まで増やせるようになります。
今回の改正で、夫の収入によって、「配偶者控除」の額が変わる仕組みに改正されました。
夫の合計所得が900万円以下の場合は38万円、900万円超950万円以下の場合は26万円、950万円超1,000万円以下の場合は13万円となり、夫の合計所得が1,000万円超の場合は、配偶者控除は受けられません。
妻の年収が150万円を超えても201万円までは、夫の収入等と妻の所得額に応じて段階的に配偶者特別控除が受けられます。
但し、夫の所得が一定の範囲(年間の合計所得金額が1,000万円、給与収入のみの場合は年収1,220万円)を超える場合には適用されません。
これにより、扶養に入っている妻の場合、「年収150万円」「年収201万円」を意識して働く必要があります。
改正後の注意点は、以下です。
夫の所得税について、妻に関する所得控除分として満額の38万円が適用される妻の年収の上限は150万円まで引き上げられましたが、妻本人が支払う所得税のボーダーラインは現在まだ103万円のままです。
年収103万円を超えると、所得税が発生するので「103万円の壁」といいます。
103万円の壁というのは、2017年までの配偶者控除にも当てはまりますが、多くの場合は所得税のことを指しています。
給与所得者の場合は、給与所得控除額65万円と基礎控除額38万円を引くと、課税所得金額が0円になるので、「年収103万円」が所得税の壁となっています。
なお、住民税は地域によって異なりますが、こちらも変わらず年収93〜100万円がボーダーとなります。
東京都や多くの自治体では、前年の合計所得金額が35万円以下の場合は、均等割も所得割も非課税とされています。
給与所得者の場合は、給与所得控除額65万円を引くと、「100万円-65万円=35万円(合計所得金額)」で非課税なので、「年収100万円」が住民税の壁となっています。
但し、自治体によって課税基準が異なりますのでご注意ください。
健康保険や厚生年金など、社会保険に関しても、夫の会社の社会保険の扶養に入れるボーダーラインは106万円または130万円のまま変わりません。
勤務条件が以下の人は年収106万円を超えると勤務先の社会保険への加入が必須となります
・ 週の所定労働時間が20時間以上
・ 年収106万円以上(賃金月額が88,000円以上)
・ 雇用期間が1年以上みこまれる
・501人以上(厚生年金の被保険者数)の従業員のいる企業
・ 学業を主とする学生(昼間学校に通う学生)でないこと
※ 以下は1ヶ月の賃金から除けます。
・ 臨時に支払われる賃金や1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:結婚手当、賞与等)
・ 時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(例:割増賃金等)
・ 最低賃金法で算入しないことを定める賃金(例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当)
年収が130万円以上になると、夫の社会保険の扶養から外れることになりますが、妻本人の勤務先の社会保険に加入できるとは限りません。
その場合、自身で国民健康保険や国民年金に加入し支払う必要があります。
社会保険の被扶養者となるための要件のひとつとして、年収130万円未満という項目があります。
配偶者の方が年収130万円を超えてしまうと、被扶養者でなくなってしまうことから、社会保険では「130万円の壁」といいます。
配偶者控除と配偶者特別控除の改正で2018年から、税制上の「103万円の壁」は「150万円の壁」になりました。
配偶者の年収要件の引き上げや控除額等が改正され、2018年からは制度が大幅に変わります。
改正により、主婦の人は改めて働き方を考え直す機会となるでしょう。
収入拡大の機会となりますが、注意すべき壁は税制以外(社会保障、企業手当など)にもあります。
また、税制上有利だからといって、仕事に回せる時間が増えるかというと子供や家族の状況などありますので個々に様々です。
扶養内で働く人は、配偶者控除額の基準とともに勤め先や家族の状況などを考慮し、今後はどう働いていくのかを長期視点で考えるとよいでしょう。
なお、一時期は、配偶者控除を廃止し、夫婦控除の新設を新設するという議論もされていましたが、一旦延期となったようです。
本制度は改正後もまだまだ問題点が残っていると指摘されており、さらに改正される可能性があります。